
Voiceは、EOSの創設者BMが2019年6月に立ち上げた分散型ソーシャルメディアプラットフォームです。Twitter(X)やFacebookなど、既存SNSへの挑戦を目指して設計されました。EOSの親会社Block.oneが支援し、最大3億ドルの資金調達に成功。ローンチと市場展開のため、Block.oneはまずSEC制裁金2,400万ドルを納付し、コンプライアンス体制を整備。その後、BMがVoice.comドメイン取得に3,000万ドルを投資し、業界で公開ドメイン売買の最高記録を樹立しました。Block.oneはEOSネットワークで一度の取引でRAMを330万購入し、EOSネットワーク資源の最大保有者となり、一時的にはネットワークメモリの30%を支配しました。これらの施策から、BMがVoiceをEOSネットワークの主要DAppへ成長させる強い意志が示されています。
ローンチから半年後の2019年、Voiceは親会社から分離し、Block.oneは追加で1億5,000万ドル(現金1億ドル+知的財産資産5,000万ドル)を投資。Voiceへの総投資額は3億ドルに達しました。しかし、プロダクト体験やプライバシー問題への厳しい批判が寄せられ、市場の反応は冷淡でした。これを受け、Block.oneは2021年5月にVoiceをNFT中心のソーシャルプラットフォームへ転換し、新進クリエイターをターゲットに、2021年夏のローンチを目指すと発表。新プラットフォームでは、ユーザーが多様なデジタル資産を自由に作成・取引でき、クリエイターはロイヤリティ収入を得られます。同社は規制上の課題が転換の主因と説明しています。
戦略転換後もVoiceの苦戦は続きました。低迷するNFT市場では、トップクラスのNFTでも価格・取引量・ユーザーエンゲージメントが下落傾向にあります。Voiceのオンチェーンデータはさらに厳しい状況を示し、DappRadarによれば、転換後のVoiceの取引は数百〜数千ドル規模に留まり、2022年5月以降はほぼ停止しています。Voice公式Xアカウントのエンゲージメントも、過去1年間の投稿のほとんどが一桁台のリツイートといいねにとどまっています。2024年9月14日、Voiceはサービス終了を発表。新規ユーザー登録とマーケット機能を停止し、NFT資産をセルフカストディウォレットへ移行するサービスを提供します。資産へのアクセスは2024年12月31日まで可能です。
Voiceの終了は、BMによるソーシャルメディアへの挑戦が再び挫折したことを示しています。華々しいローンチから最終的な市場の拒絶に至るまで、4年間・3億ドル規模のプロジェクトは失敗に終わりました。本件は、ブロックチェーンアプリがソーシャル領域で直面する高い障壁や、革新的プロダクトの市場浸透の難しさを浮き彫りにしています。Voiceの消滅は、技術投資と資本だけでは不十分であり、ユーザー体験、市場タイミング、エコシステムの力学こそがプロジェクト成功のカギであることを明示しています。











